「身元保証人いないからさァ、仕事できないンだよ~」。 ちょっとした身体障害のあるその男性は、できる仕事が限られている。やっと仕事が決まって安心したけれど、身元保証人のサインが要る。書類提出ができない。付き合いのある親戚縁者も友人もいない。独居。困った…。
人生の節目に「身元保証人」は登場して、時に独居者の行く手を阻みがちだ。
今更ながら「身元」とは何だろうと考えてみる。 「身元の確かな・・」という表現があり、その裏には「どこの馬の骨とも知れない・・」という警戒心が潜んでいるように感じられるが、馬鹿々々しくも「馬の骨」なわけがなく、そもそも生まれ育ちの身元は戸籍謄本が証明してくれる。誰でも、どこかで生まれて育って、それぞれのストーリーがあり、現在に至っている。それこそ、馬小屋で生れた人が長じて崇め奉られる場合だってある。
この「身元保証人」、犯罪の類が生じた場合に備えて近親者の当人保証という狙いが伺われるが、この考えは一考の余地がある。 就労に関して言えば、遺伝的に囚われている「宮仕え」という観念が、この“保証人提示”を許していると見られる。労働力を提供する者に対して雇用者側が同様に責任ある対応をしているかどうかは大いに問われるところであり、かなり一方的な要請であることは明らかだ。双方の立場は対等である。 近親者の当人保証を求めるのなら、雇用者として、会社の経理・人事情況の事無きに加えて、労基法の順守を宣誓して保証すべき。むしろ、こちらの方に重きが置かれるのが正当だろう。 実際に事件が起きれば警察・弁護士の出番。加害者が必ずしも労働者であるはずもなく。
身元保証請求の主旨は、事故が起きた場合の連絡先が問われていると考えるのが妥当であり、そして、それは雇用者側にとって必要不可欠な情報ではある。この「身元保証」は代表的な例ではあるが、同様に単身者が立ち塞がる壁の前で苦慮する場面は少なくない。
福祉的措置として、年齢的には「子ども支援」や「高齢者支援」、障害のある人には「障碍者支援」があり、その他、生活支援は種々用意されているが、単身者たちは自立と見做されて、特段の“支援”は設けられていない。 しかし、実際は、この“自立者”見做しが盲点となっていることが上記の「身元保証」の一件でわかる。冒頭の男性は、結局「身元保証」にサインしてくれる人を見つけられず、生活保護から抜けられない結果となった。要は、人生に関わる壁が立ちふさがっても、そこを仲介する社会システムが用意されておらず、相談する場所さえない。自立の単身者は独力で立ち向かうこととなるが、限界がある。壁を乗り越えられなければ、場合によっては不本意ながらも他所の世話になり、人生行路を変えざるを得ない。
この件は年齢を問わない。足場を築いても梯子が架けられないのだ。
というわけで、他人とのつながりの薄い独居者、あるいは単身者の「連絡先・帰属先」なるものをどこかに準公的にでも用意できないか、というお話。
結論として、『公的に支援機関を設置する』という案に至った。
1.「地域包括相談支援センター」等の名称で地域の公民館か、自治会等の場所を活動拠点とする。
2.「身元保証」等の類については、請求先と交渉し、「地域包括相談支援センター」を連絡先とす る。(賠償請求等には応じられないが、当センターが本人の帰属場所である旨を伝え、理解を求める)
3.孤独死の可能性がある人は、予め「地域・・センター」に届けておく。
① 死後の遺骨処理方法の希望 ② 遺物処理の特記事項 ③ 預金の希望使途 ④ その他最小限の伝達事項
このケースは、専門に手掛ける業者もいるが、大方は中高年も含めて突然のため、警察、役所が緊急対応にあたる場合が多い。(処理件数が増えてきているのは想像に難くない)
本件は半ば義務化して、特に単身高齢者の該当者には必要事項を聞き取り、リストを作成しておく。これは公的にかなり有効と思われ、当事者も安心だ。
4.その他、単身者ゆえの諸々の困りごとを「包括支援センター」として相談を受ける。 ( 対象者:諸事情により、止む無く「単身」を余儀なくされた人。年代を問わず)
当センターは、主として「相談する人がいない」単身者の究極の「拠り所」とする。
大まかには以上のような公的相談所だが、ここで肝心なことは、相談に与る者は「元気な高齢者」であることが望ましい。ある程度生きて生活の中で経験しなければ、それに伴う責任も含めて理解できないことは多い。また、高齢者の知恵を発揮する場所として極めて適正である。
※ ついでながら―
・子育ての相談や青少年の相談など、高齢者の知恵がどれほど役立てられることかと想像する。この蓄積された知恵がお蔵入りになってしまうのは実に惜しいことだ。このような場で発揮されれば、全体が活性するであろうことが大いに期待できる。
・当センターの特に3の支援業務は役所の業務に匹敵する内容でもあり、公的業務ではあるが、その他の業務の柔軟性を確保するため助成金による準公的機関としての位置づけが望まれる。利用者が「出入りし易い」ことに重点をおいて当人の自主行動を促す。